生物多様性保全の見地から水産研究を考える |
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1992年リオデジャネイロで開催された地球サミットで「生物の多様性に関する条約」が採択され,157ヶ国の代表が署名した。日本は翌年批准したが,それを前後して私たちは生物多様性という言葉を耳にするようになり,生物の多様性が保全されなければならないということを我々は漠然と感じるようになった。水産業は,自然の恩恵を受けて成り立っているわけであるから,生態系の保全は重要な問題であるはずだが,我々は水産に携わる研究員として,その認識は乏しいというのが現状ではなかろうか。
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生物多様性,特にその構成要素である遺伝子レベルの多様性について,我々の思慮を促す事件が95年にあった。その年,リュウキュウアユの生息量が前年の1/10に減少し,人工種苗を放流しようという話が持ち上がった。しかしながら,人工種苗は天然集団と比較すると遺伝的変異が低下している場合があることや。すでに天然集団の遺伝的変異保有量が低下しており,遺伝多様性に十分な配慮が必要な状況にあることから,放流には待ったがかけれたのである。この事件から,遺伝的多様性の保全との種苗放流の問題について考えてみると,現在海面,内水面を問わず種苗放流が行われているが,その対象種の天然集団の遺伝的組成については,ほとんど把握していないのが現状である。コイやフナは河川間の遺伝的交流は人為的な移植がない限り起こり得ないし,貝類やウニといった底生性の生物や移動性の少ない魚類では広範な遺伝的交流は行われないだろう。従って,遺伝的な差異が地域間で存在することが十分考えられ得る。ここでなぜ遺伝子レベルでの多様性を問題視するかというと,それぞれの種は遺伝的な多様性を保持することにより,環境の変化にフレキシブルに対応しており,もし,遺伝的多様度の低下したロットが放流され,天然集団の遺伝的多様度が低下すれば環境の変化に対応できず種を維持することができなくなる可能性があるからである。数年後に完成する水産技術開発センター(仮称)ではバイオテクノロジーの研究も行うことになっているが,耐病性や特定の環境に抵抗性を持つような品種をバイオテクノロジーを利用して |