交尾後1〜7日を経てから産卵し,孵化まで大事そうに腹部に抱きかかえます。卵を抱いても砂に潜っていますが,新鮮な海水が卵にかかるように尾の先端を図のように砂から出し,そよ風で柳の葉がなびくようなかるさで,絶えず揺り動かしています。
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   産卵は本県では1年に2〜3回行われ,最盛期は5〜8月で年によっては4〜11月まで抱卵したカニが漁獲されます。他県では産卵時期も短く,また1年に1回の産卵との報告もあり,本県海域がアサヒガニの生息に適していることがうかがえます。孵化は日没前後に行われ,親ガニは泳ぎながら激しく尾を揺すり,幼生が卵から出るのを助けます。幼生はプレゾエアで孵化し,すぐにゾエアに脱皮し7〜8令期,約45日を経てメガロッパ,それから約15日で稚ガニヘと変態します。飼育中の水温は概ね24〜28℃で,水温が高いほど孵化から稚ガニまでに要する日数は短くなります。

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   ゾエアは頭部に著しく長い背棘と額棘をもちますが,他のカニの幼生に比べ非常に長く,浮いたり泳いだりするのに適しているのか,外敵から身を守るためなのか,どのような必要性でこれほど長いのか不思議でなりません。棘は順調に伸びると紅白のしま模様がでて綺麗なのですが,ほとんどが共食いで完全に伸びることはまれです。なお棘を食べられ丸い頭になって生きているものが結構います。

    メガロッパになるとカニに近い形態となり愛嬌もでてきます。ゾエアが光に集まる習性を持ち浮遊生活するのに対し,光に集まることはなく変態から7日ほど経過すると砂に潜り始め,底生生活への移行期と考えられます。稚ガニは甲羅に斑紋状の模様がつきますが,砂に似せることで敵から身を守っているのでしょう。一日のほとんどは砂の中にいて目だけを潜望鏡のように突きだしています。砂を取り上げないと生存さえわからず,いつの間にか死んでいることも多々あります。

  アサヒガニに限らずカニは脱皮を繰り返し成長(令期を重ね)しますが,稚ガニの令期と甲長との関係は下図のとおりになりました。成体は1年に1回の脱皮ですが,稚ガニの時は4回前後の脱皮が行われることから,甲長70mm以上になるには孵化時期等にもよりますが,少なくとも10回以上の脱皮,5年前後が必要と思われます。また個体差はありますが,2年目には産卵したとの報告があり,思った以上に成長が早いのかもしれません。

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   現在アサヒガニの漁獲は減少傾向にあり,資源添加が求められていますが,種苗生産技術は幼生の形態的特徴や飼育環境条件等から早急な開発が見込めず,種苗生産担当者として苦悩の日々を過ごしています。ともあれ,アザニガニは甲羅の中にミソ,内子,身が詰まって,それはそれは美味しいカニなので,是非とも一度ご賞味くだ,さい。それでは!


                                                                 (栽培漁業センター吉満)


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