豪州紀行

オーストラリア入国
平成10年11月28日の夜8時過ぎに名古屋空
港を飛び立ったカンタス航空機は早朝5時に
は雨期に入ったためか低い雲に覆われ,小糠
雨の降るケアンズに到着した。
私は県の平成10年度若手海外派遣研修に応
募し,ザリガニの一種であるRedclaw (cherax
quadricarinatus)養殖を中心とした内水面養殖
の現況調査のため,オーストラリアを訪問し
た。調査に向かう機内では一応睡眠を試みた
が興奮のためか殆ど眠れず,持ち込んだRed-
claw関連の論文や機内誌に目を通して過ごし
た。普通の出張なら,英語の論文は数ページ
目を通したところで眠りに誘われるところな
のだが,さすがにその日はいつもとは違って
いた。しかも,フライトアテンダントはいず
れもオーストラリア人らしく,機内は搭乗と
ともにオーストラリアといった雰囲気であり,
いやがうえにも緊張感が増す。私にとって一
番の心配事は会話。そこでまずは肩慣らしに
と,検疫申告書の記入方法についてフライト
アテンダントに尋ねてみるとそれが以外にも
すんなり通じ,少しばかり自信を深めた。固
有種が多く,独特の進化の軌跡をたどったオ
ーストラリアらしく,植物,食品に関する検
疫は非常に厳しいことで知られており,日本
茶の持ち込みについて少々不安であったが,
入国審査時の係官に直接食べる物ではないこ
とを伝えたところ,問題なくクリアとなり,
無事オーストラリア入国とあいなった。

ウォーカミンにて
最初の訪問地は,ケアンズから60qほど内
陸部に入ったウォーカミンというところにあ
るクィーンズランド州の内水面の試験場で,
ケアンズで車を借り目的地へと向かった。異
国の地でのドライブは初めてということもあ
り幾分緊張したが,初めて目にする様々な景
色に緊張は解きほぐされていった。ケアンズ
周辺の低地では熱帯雨林が山の斜面に広がっ
ているが,高地に向かうに従って木々の間隔
は広くなり,登り切ると赤っぽい灌木の台地
が広がった。所々には日本ではお目にかかれ
ないアリ塚が点在し,車に轢かれたカンガル
ーが道路脇に横たわっていた。また,道路に
木の枝が落ちているのかと思えば,エリマキ
トカゲであり,接近して轢きそうになると慌
てて前足を持ち上げて走り去っていった。
ウォーカミンにおける目的は,Redclaw研究
の第一人者であるC.M.ジョーンズ博士に会い,
試験研究と養殖の現況について情報を得るこ
とにあった。約束の時間に事務所を訪ね,事
務員らしき人にジョーンズ博士を呼びだして
もらうと,ほどなく現れたのはポロシャツに
半ズボンといういでたちの背の高いスポーツ
マンであった。私の眼前にいるこの人があの
博士かと思うと一瞬とまどいを覚えた。とい
うのも,私が目にしていた博士の論文は,他
の研究者の論文と比べ,見慣れない単語が多
く表現が多岐に富み,頻繁に辞書のお世話に
なる必要があったため,私の想像していた博
士像は目の前にいるスポーツマンとは全く異
なるイメージの人物であったからである。早
速,施設の案内をしてもらいながら,現在行
っている試験の内容について説明して頂いた。
現在,Redclawに関しては,成長の良い養殖
に適した系統を作出するという選抜育種の研
究を行っており,すでに対照区よりも10%程
度成長がよいという系統を作出したというこ
とであった。博士は,種々のジャーナルに論
文を発表しているが,それだけにとどまらず,
これからRedclaw養殖を始めようとする人
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