達へのマニュアルも州の出版物として執筆し ており,そこには必要となる生物学的基礎知 識から施設造成や運営といった経営的な面に 至るまでの事柄が記述されている。その他に も,近年の育種研究成果に基づく,養殖場内 で優良な親エビを維持していくためのマネー ジメントに関する冊子や養殖施設関連を紹介 するビデオも作成している。従って,博士は 論文発表により自分自身の資質を高めつつ, かつ,その成果を地域の一産業として見事に 還元しており,いわば研究員としての理想像 を具現化していると言ってもいいであろう。 心配していた言葉の問題は事前にRedclaw 関連の論文にはそれなりに目を通していたの で,日本で心配していたほど戸惑うこともな くコミュニケーションが可能であった。ただ し,知ってのとおりオーストラリア独特のな まりがあり,“day”が「ダイ」であることぐ らいの知識はあるものの,それ以外の言葉に ついては,こちらは全く準備ができていない ため,いきなり会話の中で,“paper”「パアパ ア」や“lake”「ラアク」と言われて一瞬ピン とこないという場面に時折遭遇した。 Tynaroo湖にて 天然域におけるRedclawの生態を調べる ため訪れたTynaroo湖は,ウォーカミンの試 験場から車で30分ほどの所ににあり,湖岸の総 延長が200qほどもある大きなダム湖で10年 ほど前にRedclawを導入したということで あった。 実は,カーペンタリア湾に面した自然生息 地に行きたかったのだが,ケアンズからは往 復1000q以上の道のりで,雨期に入っいた ため道路上が川になっているところもあるら しく,4駆でないと行けない状況なので一人 で行くのは勧められないということで断念し た。 現地に着くと,試験場の公用車はシュノ ーケル付きのランドクルーザーであり,自然 生息地はこれくらい気合いの入った車でない とたどり着けないような所かと思い,強行し
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なくて良かったと少し胸をなで下ろした。 Tynaroo湖では,湖畔のコテージに宿泊した が,ジョーンズ博士が事前にそこの主人とレ ッドクロウ採集の話をつけてくれたため, 労せずレッドクロウ採集を行うことができた。 宿泊したコテージの主人はRedclaw漁にか なり詳しく,Tynaroo湖におけるRedclaw採 集のポイントを熟知しており,彼から多くのこ とを学ぶことができた。Redclawの採集ポイ ントは,水深1〜2mの所であるが,これは普 段Redclawが摂取している植物が繁茂する 水深帯と関係しているものと思われ,透明度 があまり高くないことから,2m以深では水 生植物が殆どないことに起因しているものと 考えられた。湖岸の波打ち際にはVallisneria 属と思われるテープ状の水生生物が打ち上げ られており,こうした植物の枯れて腐敗しか かったようなものがRedclawの主だった餌 になっているものと考えられた。また,湖の あちらこちらでは木々が半分水中に没した形 で枯れており,こうしたところも格好の採集 ポイントということであった。ザリガニ類の 多くが巣穴を掘る中にあって,Redclawは殆 ど巣穴を掘らないことで知られており,彼ら は,枯れた木々の根が作り出す複雑な空間を シェルターとして利用し,捕食者から身を隠 しているものと考えられた。興味深いことに オーストラリアに生息する3種のウナギに分 布域はRedclawの分布域と重複していない。 思うに,Redclawは偶然にもウナギのいない ところが分布域であったがために巣穴を掘る 習性を身につけなかったか,あるいはその習 性のためにウナギ類の分布域までは分布域を 広げることができなかったか,なにがしかの 影響を受けているかもしれない。いずれにせ よ,Redclawについての興味は尽きるところ がない。 その後,Tynaroo湖をあとにし,海面の試 験場のあるブリスベン近郊まで約2千qの道 のりのドライブを敢行した。 (指宿内水面分場山本) |