「鹿児島旬のさかな」 冬のさかな(4):ブリ
成長するに従ってその呼び名が変わることから「出世魚」と呼ばれ,縁起の良い魚である。
ブリには成人病を予防するといわれるEPAやDHAが沢山含まれているほか,たんぱく質,脂肪,ビタミンも豊富に含まれ,栄養面でも優れている。
刺身のほか焼きものや煮ものにも適し,和・洋どちらの料理にも合い,あらも美味。
「鹿児島産ブリ」は肉質が良く,高い評価を受けている。
写真1 イリド病魚の鰓に発現した黒点
本症病魚の診断は外観及び解剖所見で大きな特徴がないことから,水産試験場では脾臓組織中のウイルス感染細胞を染色したり,モノクローナル抗体(平成7年度から養殖研究所から供与されるようになり,精度の高い検査が可能)と反応させて検出しています。しかし,これらの操作はある程度時間を要したり特別な機器を必要とするため,漁協等の現場サイドではあまり行われません。そこで,この鰓の黒点を観察することで簡単に本症の診断ができれば,養殖現場での魚病診断精度が向上するのではないかと考えられたのです。鰓の観察はスライドガラス上に切り取った鰓の一部を載せ,顕微鏡で見るだけで行えるからです。
表1に水産試験場でモノクローナル抗体を用いてイリドウイルス感染症と診断した病魚のうち,鰓に黒点がみられる割合を魚種別に示しました。このように,各魚種とも非常に高い出現率を示しており,本症の簡易診断方法としての有効性が確認されました。
次に,他の疾病における黒点発現について調べたところ,連鎖球菌症や類結節症などの細菌性疾病や寄生虫症ではほとんどみられませんでしたが,ウイルス病であるモジャコ期の腹水症には高率に認められました。このことから,腹水症病魚の診断時には注意を要しますが,腹水症とイリドウイルス感染症は発生時期や魚体サイズが異なっており,誤診する可能性は小さいものと思われました。
このように,鰓の黒点観察は本症の診断にたいへん有効で,現在,各漁協で行われています。
ところで,この鰓の黒点はどうして現れるのでしょうか?
このことを調べるために,次の感染実験を行いました。まず,100尾のマダイ稚魚(平均体重5.1g)を同時にイリドウイルスに感染させた後,50尾ずつ2槽に分け,1槽では斃死の推移を,もう1槽では数尾ずつ経日的に取り上げて鰓の黒点出現状況を観察しました。感染はイリドウイルス症カンパチ病魚の脾臓及び腎臓をリン酸緩衝液とともに細かくすり潰した後,遠心上清を濾過して得られたウイルス液を飼育水に入れ,約1時間処理する方法を用いました。
感染させたマダイ稚魚ははじめの1週間ほどは異常なく与えた餌もよく摂餌しますが,感染8日後から急に摂餌不良となり,その翌々日から急激な斃死が始まります。鰓の黒点もウイルス感染後すぐにはみられず,摂餌が悪くなった翌日から急激に発現しました。
黒点が発現した鰓の組織切片を作成して観察したところ,二次鰓弁の毛細血管内に大型の白血球が多数詰まっているのが観察されました。本症病魚の鰓は肉眼的にややピンク色に退色していることが多いのですが,これは鰓組織内の白血球数が多くなったことに起因するのではないかと思います。そして,この白血球内部にメラニン顆粒と思われる黒い色素が認められたのです。
写真2 黒点が出現した鰓の組織切片像
(矢印が大型の白血球,PAS染色)
これらのことから,鰓の黒点は斃死直前に毛細血管内に急激に増加する白血球内部に出現する黒色色素であることがわかりました。
ここで気になることは,鰓の黒点出現状況と摂餌悪化及び斃死状況が一致することです。もしかすると,鰓の毛細血管が増加した大型白血球(メラノマクロファージと思われる)で詰まって血行障害を起こし,これが斃死の一要因になっているのではないかと考えています。このことは,本症病魚が肉眼的にはほとんど目立った症状がなく,外観的にもきれいな状態で死んでいることからも推察できます。もしそうであるのなら,白血球が詰まることで生じた血行障害を何らかの対症療法的な方法で改善してやれば斃死を抑制することができるかもしれません。
福留さんがある日気付いた鰓の黒点をいろいろ調べていくうちに,興味深いことがイモズル式にわかってきました。
この研究を通じ,魚病診断で病魚を数多く丁寧に観察するという基礎的なことが,病気を診る目や考え方を肥やしていくのに大切であることを改めて感じました。
(生物部 竹丸)
2 使用したブリについて
本試験は「高品質配合飼料開発研究」という名称で,固形飼料(以下EPと表記)の脂質含量を高めて,その性能改善を図る目的で実施しました。試験魚は1歳魚ブリ(平均体重約3.7kg)を使用しました。試験区は,脂質含量の異なるEP(18,23,28%)を給餌した3区(EP-1,2,3区)と,モイストペレット(以下MPと表記)給餌区(MP区)の合計4試験区を設けました。以上の飼料を給餌して,昨年11月から今年の3月まで飼育試験を実施しました。食味アンケート調査には,飼育試験終了後の魚体を取り上げ,飼料の違いによる魚肉の食味に対する影響を検討することとしました。
試験終了時魚体の一般成分を,下表に示します。
これを見ると,飼料の脂質含量が高くなると,魚体のそれも高くなる傾向が見られております。
3.食味アンケート調査結果
アンケートの方法は,以上の4試験区の魚体を刺身で試食してもらい,魚肉の色調,つや,臭い,食感,脂ののり,旨味の各項目と総合的な評価について比較して,一番良いものと悪いものを選んでもらいました。
モニターは鹿児島県内,九州,四国,関東,関西の水試,大学,漁協職員,漁協組合員,消費生活団体等の方々で,総計515人でした。これらを年齢別,地域別,男女別について集計しました。集計方法は,各試験区について良いと回答した人数の倍数から悪いと回答した人数を差し引いた数値で表しました。以下にこれらの結果について紹介していきますが,誌面に限りがありますので,個人の総合評価のみを紹介します。
@年齢別評価
世代が違うと味の好みも違ってくるものかもしれません。まず年齢による嗜好の相違について比較しました。ここでは21〜30才を20才代,31〜40才を30才代,41〜50才を40才代,51才以上を50才代と分類しました。有効回答数は20才代=98,30才代=99,40才代=103,50才代=192の計492人でした。各個人の総合評価結果を図1に示します。
これをみると,年齢層が上がるにつれてEP−1区の評価が高くなり,逆にMP区の評価が低くなる傾向がありました。年輩の方々は脂が少ない魚を好むのでしょうか。
A地域別評価
味の好みは,生まれ育った地域によっても違うものと思われます。そこでモニターを,鹿児島県,関西,関東,九州(鹿児島以外および四国を含む)に分けて比較しました。有効回答数は鹿児島県=306,関西=29,関東=91,九州=89の計515人となりました。
個人の総合評価結果を図2に示します。
これをみると,関西,九州ではMP区の評価が高くなりました。しかし同じ九州でも鹿児島ではそれほどMP区の評価は高くありませんでした。関東ではEP−1区の評価が高く,MP区は評価が低くなりました。
また魚体成分からEP−1,2区を脂が少ない魚,EP−3区とMP区を脂の多い魚と考えると,脂が少ない魚は鹿児島と関東で,脂の多い魚は九州で評価が高くなる傾向がありました。
B男女別評価
男女による嗜好の違いについて比較しました。有効回答数は,男性=254,女性=194の計448人でありました。
個人の総合評価結果を図3に示しました。
これをみると,男性は女性に比べてMP区の評価が高く,女性はEP−1区の評価が高くなりました。脂が少ない魚と脂の多い魚で比較しても,女性が脂が少ない魚を好むことがわかります。
以上のように食味アンケート調査結果について紹介しましたが,この結果がそのまま養殖ブリに対する消費者の嗜好を反映しているとはいえないでしょう。しかし,食べる人の年齢,出身地,性別等によって好みが異なることがおわかりいただけたと思います。
将来養殖魚が,女性向け,若者向けというように区別して生産し,出荷される時代がくるかもしれませんね。
(化学部 西)
2 精子の構造と機能
精子は先体域,核域,ミトコンドリア域,尾部域に分けることができます。
先体は,精子の先端にあり,卵との接着を容易にし,精子が卵外被を通り抜けるのに必要な物質を分泌させる働きがあります。しかし,卵膜ではなく卵門と呼ばれる小孔を通過するためなのか,チョウザメやポリプテルスのような古いタイプの魚を除いて魚類には先体がありません。
核域には父方の遺伝情報すなわちDNAが詰め込まれています。ヒト精子の頭部は4〜5ミクロンですが,その中のDNAは引き延ばすと1.5メートルにもなります。通常,細胞内のDNAはラセン状に巻き込まれていますが精子内に存在するときはラセン構造を解きほぐし,一本の線状にして,効率よく詰め込まれています。
精子中のミトコンドリアは種によって形態,数が異なりますが,役割は受精に至るまでの長い道のりを旅するためのエネルギー生成の場です。魚類ではミトコンドリアで構成されている中片部の大きさと精子の運動時間にはある程度の相関関係が見られます。精子のミトコンドリアも受精時に卵によって取り込まれますが,卵の細胞質によって破壊されることから,ミトコンドリアDNAは厳密に母系に遺伝されていきます。
一部の種を除いて,精子には鞭毛があり,運動装置として機能しています。精子は最初から動いているわけではなく,運動能力獲得段階を経て,外部環境の変化と共に運動を開始します。運動開始機構は種によって異なっており,例えばコイ科魚類は淡水の低浸透圧で,海産魚では海水の高浸透圧で運動を開始します。また,サケ科魚類では,輪精管中の精子は高濃度のカリウムイオン(K+)を含む精漿中では運動を停止しており,K+濃度の低い淡水中に放出されると運動を開始します。さらに運動開始に伴い細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度が上昇することから,細胞膜イオンチャンネルにおけるK+/Ca2+の交換が精子の運動開始を司っているようです。また,内部要因としては,cAMP(サイクリックAMP)という物質を介する応答システムが鞭毛の運動装置である軸糸に働いて運動開始を引き起こしています。
近年,原核細胞と原ミトコンドリアや原色素体の共生により真核細胞が生じたという説に加え,真核細胞の鞭毛,繊毛,細胞分裂時に染色体を牽引する紡錘糸の起源は,スピロヘータ類似細菌と宿主細胞の共生によるものであるという説がでています。
3 精子凍結保存技術について
魚類精子の凍結保存技術は,畜産分野に比べると後れをとっているのは否めませんが,大きな要因となっているのは,魚類精子の運動時間の短さです。特にサケ科魚類は短く,30秒程度で運動を停止してしまいます。もしヒト精子の運動時間がこの程度だったら,ヒト精子が子宮腔内を泳ぐスピードは時速2〜3pなので子孫を残すことは不可能となってしまうでしょう。
魚類精子の凍結は, 1)精液の採集,2)凍結保護物質を含んだ希釈液との混合,3)凍結,保存, という手順になります。
凍結保護物質として,グリセリンやジメチルスルホキサイド(DMSO)等があり,運動時間の短いサケ科魚類は一般にDMSOが用いられ,グリセリンは家畜やヒトにも用いられています。グリセリンの凍結防止機序はグリセリンが細胞内に浸透することによりk細胞内の自由水を脱水し,氷晶形成を抑制することによるといわれています。添加濃度は魚種,希釈液組成により異なりますが,5〜15%程度です。希釈液も魚種により異なり,リンゲル液や人口精漿のような塩類溶液からグルコース液,糖を含む液等があります。
魚類精子の凍結方法としては,ドライアイス(−79℃ )の板に穴を開け,希釈した精液を滴下する方法(ペレット法),希釈精液をウシ精子保存用のストロー管に封入し,液体窒素液面上に設置する方法(液体窒素蒸気法),ストロー管に封入後,ガラス管に入れ,密栓してメタノール・ドライアイスに浸す方法等が行われています。凍結後は,液体窒素(−196℃)中で保存しますが,保存期間は半永久的といわれ,ウシでは20年経過後に受胎したことが実証されています。
4 精子間競争について
精子は精巣で形成されますが,精巣の温度は低く保たれたほうが精子はエネルギーロスを少なくできます。それ故,ヒトとチンパンジーは精巣をブラさげることにより精巣内の温度上昇を防ぎ,激しい精子間競争を戦ってきたのではないかといわれています。ヒトの精巣の大きさと1回の射精当たりの精子数はチンパンジーに次ぎ,ゴリラやオランウータンよりも優っています。チンパンジーの雌は発情すると1日に何頭もの雄を受け入れます。従って,自らの子孫を残すために雄は交尾回数と精子数を他の個体よりも増やす必要があります。よって,冷却能力に優れ,精巣の大きな個体が子孫を残してきたというわけです(アレがブラさがっているといろいろ危険にも遭遇するのだからそれ相応の理由があるはずであり,本来はヒトの性の形態もきっとチンパンジーと一緒のはず!)。一方,雄ゴリラはハレムを形成しますので,自らの子孫を残すにはハレムの防衛あるいは奪取が必要となります。よって,雄ゴリラは精巣ではなく体を発達させていったようです。一方,雌が多くの雄を受け入れる(まことに残念ながら現代においてはチンパンジーの雌)のにも理由がありそうです。それは,複数のオスの
精子間で競争をさせ,最後に勝ち残った精子のみに自らの遺伝子を託そうという戦略なのかもしれません。やはり最後は男よりも女の方がうわてということでしょうか。
(指宿内水面分場 山本)
写真2
長さ3〜5p この写真では9輪が確認できる。