第274号 平成9年10月

「鹿児島旬のさかな」 秋のさかな(4):ツキヒガイ
 
 表が太陽,裏が月の色をして,その姿の美しいことから「月日貝」といわれる。
 多くは日本三大砂丘の一つである吹上浜沿岸で漁獲され,生産量は全国第1位。
 貝柱が大きくて味も優れ,刺身や姿焼きで賞味される特産品である。

目 次

賞味期限はどうやって決める?
最新赤潮研究事情
甲殻類の種苗生産状況
リュウキュウアユ生息環境改善への道
研究員になって
「理解する」ということ
 

賞味期限はどうやって決める?

1 賞味期限表示の義務化
 食品衛生法の改正により,従来,食品の日付表示は「製造・加工年月日」の表示が義務づけられていたのが,本年4月1日から「賞味期限(あるいは消費期限)」の表示が義務づけられたことは,皆さんご承知のとおりです。これは,食品の製造技術・流通技術の進歩や多様化等により,製造年月日表示では,その食品がいつまでもつのかわかりにくかったり,製造年月日を1日でも新しくしようと早朝操業や深夜0時過ぎに食品を製造し終わるようにするなどの過度の深夜早朝操業を助長したり,国際的にも期限表示が採用されていることなどから,このように改正されたわけです。

2 賞味期限と消費期限
 法令上,期限表示にはこの2つがあり,その意味が明確に区別されています。
 まず,
 「消費期限」とは,概ね5日以内に消費しなければ,衛生上の危害(食中毒等)が発生するおそれがある食品に付けられる表示である。例えば生がき,弁当,調理パン等定められた方法で保存した場合に,急速に品質が劣化しやすい食品等に表示します。
 それに対して
 「賞味期限」は,この期間を過ぎたからといって,すぐに食べられなくなるわけではないが,その食品が持つべき特性(味,香り等)を自信を持って保証できる期間をいう。つまり,「美味しく食べるにはこの期間まで。」という意味です。
 また,消費期限で注意しなければならないのは食べられなくなる6,7日かかるが,美味しく食べられる期間,いわゆる正味期限が5日を越えない場合には,消費期限を表示しなければならないということです。

3 全ての食品が期限表示されなければならないか?
 答えはもちろんNOです。食品衛生法で規定されているものあるいは日本農林規格(JAS)で規定されているもの以外は表示義務はありません(砂糖,食塩等)。
 水産食品の場合も,表示義務があるものとないものがあり,例えば,鮮魚は対象になっておらず(ただし容器包装に入れられた生がきは対象になる。)また,加工品を店頭で容器包装に入れないで秤り売りする場合などは,表示義務はなく,さらに,包装容器の面積が30cu以下の場合や何種類かの加工品は,表示全部あるいは期限表示や保存方法等一部の表示を省略することができる場合があります。よって,水産食品を製造して販売する場合は,きちんと保健所等に相談し,表示義務の有無や適正な表示方法等を確認することをお勧めします。また,近年,Ο−157等による食中毒事件が多発している中,消費者も食品の安全面には大変関心を持っていることから,今後はきちんとした期限表示・保存方法等の表示がない食品は見放されていくだろうと思われますので,もし表示義務がなくともできるだけ表示していくのが賢明ではないでしょうか。  また,期限表示が義務化されていない品目の場合でも,製造物責任法(PL法)によって,「指示・警告上の欠陥」責任を問われる可能性があると思われますので,できる限り期限表示はすべきでしょう。

4 賞味期限は,誰がどうやって決める?
 まず,誰が決めるかですが,基本的には製造,加工を行う者が決めることになっています。実態としては,スーパーマーケット等の小売店が決めている場合もありますが,この場合も,製造業者と協議の上決めている場合が多いようです。
 では,次にどのようにしてその賞味期限を設定するかということですが,基本的には,微生物試験や理化学試験及び官能試験に基づき科学的,合理的に行うこととなっており,定められた方法により保存された場合において,腐敗,変敗等衛生上の危害(食中毒等)が発生するおそれがあると思われる期間より十分に余裕を持って(つまりその期間より短く)設定することとなっています。通常,その期間に0.6〜0.8を乗じた期間を賞味期限として設定しています。
 この賞味期限の設定方法については,国(農水省)がガイドラインを示していますが,各業界の民間団体においても,日本食肉加工協会,日本惣菜協会等,また,水産関係団体としては,日本魚肉ソーセージ協会,全国削節工業協会,全国煮干協会等がガイドラインを作成しているようですし,本県の代表的な水産加工食品の一つである薩摩揚げ等のねり製品に関しては,全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会が,講習会のテキスト等で賞味期限設定のための保存試験方法を示しています。

5 賞味期限設定の問題点
 しかしながら,全ての加工品目に業界の全国組織があるわけではなく,また,あっても中小の業者の多いこの業界では組織に加盟していない業者も多く,その場合,期限設定に指針がなく,業者がそれぞれ独自に賞味期限を設定している場合が大多数であろうと思われます。
 さらに,近年の水産加工食品は低塩分高水分化傾向が進んでいるにも係わらず,賞味期限は従来のままの製品も時々見受けられるようですので,製品の改良をしたならば,その都度保存試験を行ってみることが大切でしょう。
 その試験を行う場合,微生物検査や理化学試験を行えば言うことはないですが,経費と時間がかかることから,最低官能検査はやっておくべきでしょう。(様々なガイドラインや指導書等を見ても,最終的には官能に頼らざるを得ない場合が多い。)

6 保存試験の一例
 当試験場では,現在,賞味期限設定に関する試験を継続中ですが,ここで,その一部をご紹介します。それは,賞味期限と温度設定に関する試験ですが,要冷蔵の場合,通常10℃以下に保存のこととなっていますが,店頭の冷蔵ショウケースでも置かれている場所によって5℃になっていたり,15℃になっていたりするなど温度むらのある場合が考えられるし,家庭用冷蔵庫もドアの開閉等によってかなりの温度変化が考えられます。そこで,ある加工品(今回は塩干品)を5,10,15℃に保管してその可食限界日数を検討しました。その結果,5℃保管で8日間,10℃で5日間,15℃で3日間となり,保存温度が10℃異なるだけで,可食限界日数が2倍以上も異なるという結果となりました。よって,保存試験を行う場合は,保存方法表示の内容から考えられる最も過酷な条件(この場合温度)を設定して行うべきと考えられます。

 以上のように,期限表示が義務化され,消費者の食品の安全性に対する関心もますます高まっている中で,加工食品を製造される方々は,今一度,適正な期限表示がなされているか検討してみてはいかがでしょうか。                          
(科学部 矢野)
 
 
 

最新赤潮研究事情

 赤潮研究は,昭和51年に水産庁の補助で赤潮予察調査事業が開始されて以来,昭和53年から赤潮対策開発技術試験などを加え,赤潮による漁業被害の軽減を目的に今日まで続けられています。自然現象が相手の調査・研究は,あまりにも広大で決定的な解決策を見出した事例は極めて少なく,改めて研究テーマの難しさを実感しますが,確実に一歩づつ前進してきました。今回は最新の研究テーマがどのようなものか紹介します。

1 赤潮予察技術開発
 対象赤潮生物の発生環境を知ることは,赤潮予察には欠かせない基礎項目と言えます。それだけに研究の歴史も長いのですが,最近ではこれまで県単位(道府を含む)で調査していたものを,同じ海域に面する県で共同で調査解析を行うことにより,さらに広域的に赤潮現象を捉えようとする形態に変わりました。この結果,県境をまたがる初期発生域や赤潮の発達過程,発生条件等が明らかになり,ある海域では外海水との海水交換と赤潮生物の増殖速度を対比させて,赤潮生物の増殖速度が海水交換速度を上回ると赤潮発生に至る両者の関係が示唆されるなど広域共同調査の利点が生かされつつあります。本県でも,現在後者の事例の手法を八代海にも適用させる試みを行なっています。潮流調査に基づく流動などの物理要因を加味させるわけで,これまで以上に解析が複雑にはなりますが,赤潮発生に占める割合の大きい要因と考えています。

2 海洋微生物活用技術開発
 多分に漏れず,赤潮研究においてもよりミクロな最新技術が駆使されています。その一つに,赤潮生物に寄生してその藻類を殺してしまう微生物の利用があります。数年前にその存在が確認されてからこの方面の研究も進み,現在では多くの赤潮関与細菌やウイルスが見つかっています。最近新聞で報じられたものでは,水産庁南西海区水産研究所がヘテロシグマを死滅させるウイルスを発見し,このウイルスを利用して赤潮を撃退する防御技術の実用化研究があります。さらに,このような直接赤潮生物を殺滅させる機能だけでなく,海水中の殺藻細菌数の動向から赤潮を予察しようとするバイオセンサー的利用も考えられています。
 また,いくつかの大学では種間識別システムの開発が行われています。例えば有害種となるシャットネラにはマリーナという毒性の強いアンティーカとが知られていますが,両種ともに固い殻などないため個体の形態変動が大きく,両者が同時に存在する海域では環境によって識別が非常に難しい場合があります。また,ギムノディニウム属の種類が極めて多く,形態学的分類が難しいため正確な固定には時間を要します。このための簡便かつ客観的な識別手法として,モノクロナール抗体法の開発が進められてきました。近年ではさらにPCR法による識別が進められ,実用化されれば赤潮生物に限らず,赤潮関与微生物の判別にも応用できるでしょう。

 このほか,情報化の波を受けて赤潮貝毒の発生や環境調査情報をデータベース化するネットワーク実用化試験や被害を直接軽減する方法を模索するなど他方面から研究が進められています。
(生物部  折田)
 
 
 

甲殻類の種苗生産状況

 住居を山すそに移したこともあり,この夏には多くのカブトムシ,クワガタムシが飛来してきました。少年時代の懐かしさから思わず飼育道具をそろえ,現在世話に追われています。初めてカブトムシを飼った時は幼虫と成虫のあまりの違いに驚かされ,蛹から脱皮する様子に感動すら覚えました。
 カブトムシ等は甲虫と呼ばれ昆虫類に属しますが,大きな分類では節足動物の系統に位置し,この中には栽培漁業センターで種苗生産を行っているタイワンガザミと技術開発中のアサヒガニ等の甲殻類が含まれます。
 これらタイワンガザミ等も幼生の姿は親とかけ離れ,カブトムシの幼虫から蛹への極端な変化ではないにしろ,ゾエア,メガロッパ,稚ガニへと脱皮を繰り返し親の形態に近づいていく様子には魅了されてしまいます。甲殻類と昆虫類が遥か昔にどういう生物から分岐したのか想いを馳せては,自宅でカブトムシを職場でアサヒガニを眺めています。
 前置きが長くなりましたが,現在実施中の甲殻類2種の種苗生産に関して記述します。

1 タイワンガザミ
 本種は沖縄県,長崎県等でも種苗生産されていますが,本県の種苗生産の開始は平成3年度で,ガザミの生産技術を応用して1令期稚ガニ(C1)18万尾を生産,現在は技術改良を行い百万尾(C2)の生産が可能となり,各機関からの配布要望に対処できるまでになっています。技術的にはほぼ確率段階にありますが,飼育管理には担当職員の経験に基づく判断が重要となる職人芸的な要素もあり,今後は一般的な飼育マニュアル化が必要と思われます。
 飼育方法は栽培漁業センター事業報告書に詳細を記載していますが,特記点としては,
@ 親ガニは未抱卵個体を飼育水槽内で産卵・抱卵させて用いる。抱卵まではイカ,アサリ等の餌を与え,以後は無給餌とし,個体間の影響を避けるため個別に飼育する。A 孵化は卵色(黒ずむ)などから推測し,孵化前日の親ガニを孵化(200?黒色)水槽に入れ一晩待ち,翌朝孵化した幼生を60u生産水槽に一槽当たり1,500千尾をめどに収容。孵化後の飢餓は幼生の生残に大きく影響するため,孵化水槽にはワムシとナンノクロロプシス(緑藻)を添加,また真菌症防除のためホルマリンも添加する。
B 生産水槽は緑藻と珪藻で水造りを行う。
があります。

2 アサヒガニ
 うしお第268号で試験の紹介をしたとおり,技術開発中の魚種です。東京都,静岡県,日本栽培漁業協会でも技術開発が試みられていますが,大量生産にはいたっていません。
 これまでの試験では,幼生(卵)の質で飼育結果が大きく左右され試験に再現性がないため,最適な飼育方法,餌等の解明が困難な状況にあります。また水質の悪化を嫌うため,タイワンガザミのように大型の水槽を用いた割と粗放的な飼育では2週間ほどで全滅し,飼育管理に手間のかかる魚種といえます。 抗生物質を用いた試験では1u水槽で1万尾の孵化幼生から約1千尾のメガロッパ生産が可能と思われ,メガロッパでも砂に潜れること,稚ガニへの生存率が約7割と高いこと等から,外敵の有無,放流場所等によっては,メガロッパでの放流が可能と考えています。
 現在の試験は環境に配慮し健苗性を高める必要から,抗生物質を用いない飼育方法の確立を目指していますが,山積する課題に対し年間の試験回数が制限され,すべてを解決し大量生産・放流にいたるまでには,時間がかかりそうです。                      
(栽培漁業センター 吉満)
 
 
 

リュウキュウアユ生息環境改善への道

 川に住む魚やエビ・カニ類のほとんどは,日常的に川を上ったり下ったりしています。中には海をも一定期間中の生活の場として,一生をかけて海から川の上流へと移動する魚(両側回遊魚と言い,リュウキュウアユも含まれる)もおり,こうした魚たちにとって自然の滝や床止め,堰,ダム等の人工的な横断構造物は障害物となっています。そのような障害物に特別な水路や装置を設けて魚やエビ,カニ類が昇れるような通り道を確保しようとするものが「魚道」というものです。
 現在,大島支庁河川港湾課で「奄美5河川における魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」として平成6年度から魚道づくりに取り組んでいます。先日(8月末),半年ぶりに奄美大島へ行き,魚道の設置状況を調査しましたが,川内川ではすでに前田井堰,仲畑井堰の立派な魚道が設置されています。他の河川でも現在工事中で,魚道の設置が待たれます。魚道の上流部を潜水目視調査したところ,リュウキュウアユの他にボウズハゼやヨシノボリといったハゼ類,ミナミテナガエビやヒラテナガエビ,モクズガニ等の生息も確認され,魚道の効果によって魚類や甲殻類の生息範囲が拡大されつつあると思われます。
 
 しかし,一方ではこういった河川改修工事や河川に隣接する道路の改修,復旧工事,水域周辺の森林伐採,土地改良事業などにより河川環境が物理的にも科学的にもめまぐるしく変化してきています。特に,大量の赤土流入や各種工事は河床を平坦にしてしまい,様々な生物に影響を与えます。特に昼間,餌場や移動に瀬を利用し,外敵からの隠れ場所や夜間の休息の場として淵を利用しているリュウキュウアユにとって非常に大きな問題です。
 奄美大島の河川は,本土の河川に比べて流程が短く,勾配が急で荒れ川が多い。従って,降雨量が少ないとすぐに水量が減少し,生息範囲が縮小されやすい。また,瀬や淵が十分に備わっている区間も短いのが現状です。一般的に河川改修を行うにあたって,現状の河川に構造的な多様性を与えることによって,より豊かで安定した生態系を持つ河川へと改修する,いわゆる多自然型河川工法をもっと取り入れるべきと言われており,奄美でも近年,河川工事に採用されてきています。
 川に潜水してみますと,ひらりと銀鱗を煌めかせながら石に付着しているコケをはむ姿や,なわばりを持ち,他を攻撃するリュウキュウアユが観察できます。夜間,淵に潜りゆっくりライトを照らすと寝ぼけてフラフラする姿も見られます。そんな姿に,しばしハブへの注意力も忘れてしまいます。なんと言ってもリュウキュウアユには清流が一番似合います。秋の生息数調査では各河川でたくさんのリュウキュウアユをカウントしたいものです。                   
(指宿内水面分場  立石)
 
 
 

研究員になって

 「見張りスタンバイ」今日もさわやかな号令がかかり調査開始となった。時は平成9年5月31日日本時間午前2時15分,調査船こるしおは,すでに東経170度を越え日付変更線ももう間近のところまできていた。出港してからすでに11日が経過していたが,目的のビンナガの姿は,昨日曳縄にかかって2尾のみで,なにもかからない日が続いていた。
 調査船の見張り班の人たちは,すでに双眼鏡を構え,魚群の指標となる魚付漂流物や鳥群れの探索を開始している。私も役目である曳縄の見張りのために所定の場所にスタンバイした。
 周りは見渡す限りの大海原。今日もでっかい海に抱かれて朝日とともにブリッジに立つ。時にはイルカや鯨やマンボ−なども現れその優雅な姿を楽しませてくれる。「ステキ−!まるで加山雄三みたい。」大抵の人はこう言って羨ましがるかもしれない。
 しかし,現実はそう甘くない。一日中曳縄を眺め続けても何もこない日も多い。変化のない日々が続くとだんだん気力も薄れてくる。ふと妻子のことを考えたりすると最悪である。寂しさがこみ上げてきたりなんかする。自分の弱さに気づき,一人で感傷的になっていたそんな時,落ち込み気味の私に追い打ちをかけるように,南西方向から台風が向かってきているという情報が入ってきた。くろしおは,調査を一時中止し,南東方向へ全速で避難を開始した。台風は予報に反し,まるで避航するくろしおを追いかけるかのように,少しずつ進路を東よりに変えてきた。やっと台風から逃れた時,くろしおは,すでに北緯29度東経175度付近まできていた。俺が何か悪いことをしただろうか!
  ビンナガ魚群はまだ発見していないが,経度1度ごとの海洋観測は忘れていない。くろしおも一日4回,調査で得た情報を無線連絡により各民間船に速報している。ビンナガ漁場は,日本近海からその東沖合にかけて海況等の変動により大きく変わってくる。それだけに,各船からの無線速報が,漁場探索に大変重要な意味を持っているのである。海洋観測結果だけでも当業船にとっては非常に重要な情報なのである。
 調査船くろしおは,決して釣ることを目的とはしていない。釣れなくてもそれはそれなりの結果なのである。しかし,それでは全く納得できないのである。いったい俺はなんのためにこの長期航海調査に出てきたのか!やはり竿釣りの醍醐味を経験しなくては!
 そんな願いもむなしく,時は過ぎ去り,6月10日最後の調査日を迎えた。いつものように調査は開始されたが私は全く期待していなかった。ただ帰る日を指折り数えていたのである。そんな時,鳥跳群を発見,いつものように散水,餌捲き,竿釣スタンバイ。しかし,このようなことは今航海で幾度もあった。一度はナブラ(カツオの群)に船が囲まれたこともあった。再三の挑戦にもかかわらず群が餌持ちであることが多かったため,群を船に付けることはできなかったのである。今回も同じだろうと思っていたその時,いきなり1人の竿にビンナガがかかった。1人では上げることのできない大物(13.5s)であった。早速2丁釣りに切り替える。次々にビンナガがあがる。少し興奮気味にVTRを回していた私も2丁釣りに挑戦させてもらった。6尾くらいは釣り上げたと思う。これまでの疲れもストレスも吹っ飛んだ気がした。この1回の操業だけで1t近くのビンナガが釣り上げられた。船の人たちに最後まであきらめてはいけないということを教えてもらったような気がした。
  こうして私の研究員としてのスタ−トは切られた。一般的に想像される研究員のイメ−ジとはほど遠いものであると思うが,自ら現場に出てデ−タを収集することも,研究員の重要な仕事の一つなのである。
 私はこの航海を通して,大漁こそが漁師の喜びであるということを少なからずも実感することができた。そして,漁師が大漁できるように,研究員としてどのような手助けができるのかを考えながらがんばっていこうと思う。                        
(漁業部 厚地)
 
 
 

「理解する」ということ

配属の挨拶
 この度,水産振興課から異動により水産試験場漁業部に赴任しました。
 現在の担当業務は,浅海定線観測調査,回遊性資源増大パイロット事業(マダイ),資源管理型漁業推進総合対策事業(ヒゲナガエビ),回遊性種飼付け実用化事業(シマアジ)の4つです。
 調査の歴史が長いものばかりで,諸先輩方のエネルギーに圧倒されながらも,歴史に恥じぬ仕事をしなければと決意しました。

研究員5カ月間の苦悩
 台風にいじめられる
 思い通りにはならない
 魚が心配
 船が出られない
 計画通り調査できない
 漁師は毎日がこの繰り返しなのか
 台風───────
 天気予報の天気図にも描かれていないような遙か彼方で発生した台風の動きを6時間おきに追いかけて,来るな来るなと念じながらギリギリまで我慢して,大事をとって調査を断念する・・・・・。
 調査を断念するときの悔しさ,無念さ,絶望感,そして脱力感・・・。初めは悔しくて涙が出そうでした。台風をこんなにも恨めしく思ったことは生まれて初めてでした。
  「別に台風が来ていなくても,海が荒れていれば船は出られません。船は出られても調査はできない,ということもあります。」
  頭では分かっているつもりなんです。でも実際に経験してみないと分からない次元というものがあるんですよね。
  「人とはまことに愚かなもので,自分に経験がないと,人の話すことが理解できない。」
 これは昨年度,「話力・プレゼンテーション研修」を受講したとき,講師の永崎一則先生がおっしゃられた言葉です。
 思えば,地震や風水害に遭われた方々の悔しさ,無念さなど,自分などには全く感じることもできない次元なのでしょう。漁業者の方々の生活がどれほど厳しいものなのか,頭だけで理解していても,それは本当の理解ではないのですね。

反省と今後の抱負
 水産振興課時代に漁船の担当をし,漁船検認で管轄内のほとんどの漁協を回らせていただきました。普及員以上にたくさんの漁業者と接したんじゃないか,なんて言われていい気になっていました。
──────豪華な家が一軒建てられるような買い物をし(しかもそれは商売道具),多くの借金を抱え,色んな期待と責任を背負って日々格闘しておられるのか。守らないといけないものがなんと多いことか。自分は彼らと同じレベルで戦っているか。仕事に対して厳しい姿勢で臨んでいるか。いや,自分自身に対して厳しく臨んでいるか。──────
  この5カ月間で,漁業者の皆様の厳しい生活の一端を感じることができたように思います。でもそれはほんの一端でしかなく,未だ十分理解できていません。全部理解することはこれからも不可能なのかもしれません。
 でも,これまでもこれからも毎日が勉強です。色んな経験をし,少しでも漁業者の気持ちが理解できるようになりたいです。そして彼らに期待され,その期待に応えられるような研究員になりたいと思います。
 今後ともご指導よろしくお願いします。                   
(漁業部 宍道)
 

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