ぼろ恐ろしいほどに脱落します。脱落した 稚貝は数日間は生きていますが,波板に付着する力はすでになく,薬浴しても改善の効果はみられませんでした。これが発生するとほとんどへい死してしまう場合が多いようです。
B稚貝は健康な時はシェルターの内側すなわち日陰にいることが多いのですが,この時期には表に出てきてひっくり返ってへい死している(内側も当然ありますが)とか,付着力が弱くなっているため掃除用のサイフォンで簡単に吸い上げられてしまうとい った状況で,多い時で1日あたり収容個数 の5%ほどのへい死があります。だいたい 6月中旬頃までへい死が続き,最終的には60%以上がへい死します。
 外見的には,殻の欠損(すでに形成され ている殻が融けてしまうようです。),殻の 縁辺部の褐色化(褐色の物質が付着している。)がみられます。また,これらの症状がみられるものでは,貝を裏返しにすると,腹足(くっつくところ)を動かすことはで きても思うように動かせないといった感じ で,自力では起きあがることはできません。 

へい死の原因
 @については原因が不明です。Aについても不明ですが,個人的にはBと同じ原因ではないかと考えています。Bについては,ウイルスが原因ではないかと疑われています。ここではBについて詳しく述べたいと思います。
 この病気は,筋萎縮症と呼ばれており,主にクロアワビの種苗生産で15年ほど前から
みられるようになりました。この影響で,クロアワビの種苗生産をやめ,エゾアワビに切り替えている県もあるという状況です。
 先にウイルスが原因ではと書きましたが,これはへい死した貝をすりつぶして,細菌が

 

通ることのできないフィルターでろ過した液をアワビにかけると同じ症状が再現できたからです。しかし,病原性を示すウイルスはまだ確認されていません。病貝からウイルスが分離はされても,そのウイルスによって同じ症状が発症しないようで,現在ウイルスの特定に苦労しているようです。いずれにせよ病貝と健康貝を一緒に飼うと発症することなどからも,感染症であることは間違いないようです。
 単なる餌のやりすぎと言われる方もいるのですが,投餌量をかなり低くしても発症しますし,へい死率も変わりませんでした。

へい死対策
 @については,当センターでもこれまでいろいろと対策を試みましたが効果はありませんでした。いなくなったら再度採苗するといった方法を採っています。 A,Bについても,親貝をウイルスキャリアーでない天然貝にすることや施設・器具などの滅菌などを行っていますが完全ではないようです。また,当センターでは,年間を通してアワビが飼育されており,アワビ水槽からアワビが完全にいなくなることがなく,ここが感染源になっていることも考えられます。病原体及び感染ルートを特定して,それを遮断することが急務です。
 アワビの担当者会議でもよく聴かれるのですが,現時点では病気の発生を見越して,春採卵を含め病気前により多くの稚貝を確保しておくことが大切のようです。
 こういった中で,昨年度,福岡県栽培漁業公社では,付着珪藻の培養段階から飼育水をすべて紫外線照射滅菌海水を使用することにより,筋萎縮症の発病を抑えており,今後はこういった面からも検討を加え,クロアワビ種苗の安定生産の技術を確立したいと考えています。

(栽培漁業センター 猪狩)