ワムシの高密度連続培養
(初期生物餌料培養の省力化)

S型ワムシ(Brachionus rotundiformis;以
下ワムシ)は,仔魚の餌としてサイズが適当
で,浮遊性,運動性を有すること,十分な栄
養素を含んでおり消化吸収されやすいこと,
培養が比較的容易であること等から海産魚類
の種苗生産技術開発における初期動物餌料と
して現在のところ必要不可欠となっていま
す。一方,ワムシの短所としては,質,サイ
ズが一定しないこと,貯蔵が不可能で運搬も
難しいこと,大量培養には多くの労力と施設
が必要であることが等があります。
当センターで使用しているワムシは財団法
人鹿児島県栽培漁業協会(以下協会)が従来
法により培養したもので,主餌料としてナン
ノクロロプシス(以下ナンノ)が使用され,
200個/?程度の低密度で培養されています。
餌として必要なナンノの量はワムシ1個体
当たり約10万細胞ですが,ナンノは培養密度
が2,000万細胞/?程度であるために,数十
〜数百億個のワムシを培養するためには大量
に必要となります。300トンの大型水槽を利
用したナンノの大量培養は非常に天候に左右
され,特に降水による塩分濃度の低下や日照
量の変化の大きい梅雨時には不安定で,培養
作業が過重になることが多々あります。
ワムシの培養管理はかなりの熟練がいるこ
とから協会では専従職員が管理にあたってい
ます。採集作業も20〜30t程度の培養水をプ
ランクトンネットで濾しとる作業が必要で時
間的,労務的にかなりのものとなっています。
さらに巨大なワムシ培養槽とナンノ培養槽
が必要となります。
栽培センターではこれらの状況を改善する
ことを目的に市販の濃縮淡水クロレラを餌料
として高密度連続培養試験を平成9年度から
行っています。
2,000〜3,000個/?(従来方式による培養
約10〜15倍程度)の培養密度を目標にして
技術開発を進めていますが,現在も試行錯誤
の状況です。
試験で重大な問題点はワムシのサイズの小
型化と,大量発生する懸濁物の処理法です。
懸濁物の除去については全く異なる除去法
を検討しています。一つはMF21で開発され
たワムシと懸濁物の沈降速度の差を利用した
方法(一部改変)で,もう一つはナイロン製
のマットを使用した方法です。両者ともそれ
なりに連続培養が可能となりましたが,それ
ぞれ一長一短がありどちらが優れているかを
決定するためには継続した試験が必要である
と考えています。
主な課題と対策は次のとおりです。@培養
の安定化と連続培養のマニュアル化,Aフロ
ック除去のための効率的なフィルタリング技
術の開発,Bワムシサイズの小型化の対策と
してのメカニズムの解明,株の検討,C運動
性の復活のための馴致技術の開発,D適当な
強化方法と強化剤の検討,E餌料費の節減策
として酵母等による代替餌料の検討。
一部の技術開発には長期間を要するものも
あるかもしれませんが,種苗生産において最
も重要であるワムシ培養の省力化が可能とな
れば,種苗生産技術の開発スピードも速まる
ものと期待しています。

(栽培漁業センター織田)